感圧・感温塗料(PSP・TSP)による圧力・温度分布計測手法の開発と応用Research

 感圧塗料(PSP: Pressure-Sensitive Paint)計測法は、その発光強度が圧力に応じて変化することを利用した、物体表面での圧力分布計測法である(PSPの原理については下記参照)。
 また感温塗料(TSP: Temperature-Sensitive Paint)は、発光強度が温度に応じて変化することを利用した温度分布計測法である。

 PSPは圧力分布計測が可能なことから、大きな注目と期待を集めているものの、圧力分解能が低く、実際には航空機翼面上での圧力分布計測に限定的に用いられているのが現状である。
 またPSPによる計測結果は、温度分布の影響を強く受けるため、計測結果の高精度化にはTSPを併用し、その影響を補正することが必要である。

 本研究室では、PSP・TSPの高クヌッセン数マイクロ流れへの適用をはじめとし、一層の適用範囲の拡大、計測の高精度化を目指して研究を推進している。

1. 高クヌッセン数マイクロ流れへの適用

 ナノ・マイクロデバイスの開発において重要となる高クヌッセン数マイクロ流れに関し、その実験研究例は比較的少ない。これは、スケールの小ささのため、半導体圧力センサーや熱電対を用いた圧力や温度計測が難しいためである。

 本研究室では、PSPをマイクロ流れへ適用するため、PSPをLangmuir-Blodgett法により高秩序分子膜化した感圧分子膜(PSMF: Pressure-Sensitive Molecular Film)の開発により、初めてマイクロ流路内の圧力分布計測に成功している。

 また、マイクロ流路をPDMS(poly(dimethylsiloxane))で作製することが多い点に着目し、色素分子をPDMSに混入させることで、マイクロ流路そのものがPSPセンサー化された感圧流路チップ(PSCC: Pressure-Sensitive Channel Chip)を開発している。

PSCCによるマイクロノズル内の
圧力分布計測結果

発表論文

  • Y. Matsuda, H. Mori, Y. Sakazaki, T. Uchida, S. Suzuki, H. Yamaguchi, T. Niimi, Extension and characterization of pressure-sensitive molecular film, Experiments in Fluids, 47, 1025-1032 (2009)
  • Y. Matsuda, T. Uchida, S. Suzuki, R. Misaki, H. Yamaguchi, T. Niimi, Pressure-sensitive molecular film for investigation of micro gas flows, Microfluidics and Nanofluidics, 10, 165-171 (2011)
  • Y. Matsuda, R. Misaki, H. Yamaguchi, T. Niimi, Pressure-sensitive channel chip for visualization measurement of micro gas flows, Microfluidics and Nanofluidics, 11, 507-511 (2011)

研究助成

  • 高クヌッセン数マイクロ流れの多次元多変量複合同時計測 , 基盤研究(A) ,研究課題番号21246034, 2009年04月 ~ 2012年03月
  • 機能性分子センサを備えたスマートマイクロ流路の開発,挑戦的萌芽研究,研究課題番号23656132,2011年度4月~2014年3月
  • 感圧分子膜を用いたマイクロ気体流れの圧力分布計測に関する研究,学術研究助成金,昭和報公会,2009年4月~2010年3月
  • りん光色素を用いたマイクロスケール気体流の圧力分布計測法の開発と現象解明,豊田理研スカラー,財団法人 豊田理化学研究所 , 2013年04月 ~ 2014年03月

2. インクジェットプリンターを用いたPSP・TSP複合センサーの開発

 PSP計測の最大の誤差要因は、温度分布の影響によるものである。そこで、PSP計測の高精度化には、同時にTSPにより温度分布計測を行い、温度分布の影響を補正する必要がある。もっとも簡単には、PSPとTSPを混ぜて塗布する ―PSP色素とTSP色素を単純に混合する― ことが考えられる。しかしこの方法は、両色素間の相互作用により、色素の劣化が早まる、感度が大幅に低下するといった問題があり、実用化には大きな困難が伴う。

 本研究室では、PSP・TSPの塗布にインクジェットプリンターを使うことを提案している。インクジェットプリンターを用いることで、PSPとTSPを物理的に分離して塗布することが可能となり、色素間の相互作用の問題を防ぐことができる。また、インクジェットプリンターを用いることで均一にPSP・TSPを塗布することが可能である(一般にPSP・TSPはスプレーを用いて手塗りされている)。

PSP・TSP複合センサー作製用の
インクジェットプリンター
中央部の白いプレートにPSP・TSPを
それぞれ別のノズルを用いて塗布する

 本研究は、愛知工業大学機械学科 江上泰広 教授との共同研究です。

発表論文

  • T. Kameya, Y. Matsuda, Y. Egami, H. Yamaguchi, T. Niimi, Dual luminescent arrays sensor fabricated by inkjet-printing of pressure- and temperature-sensitive paints, Sensors and Actuators B: Chemical 190, 70-77 (2014)
  • 亀谷知宏,松田佑,江上泰広,山口浩樹,新美智秀,ドット配列による感圧/感温塗料の複合化,日本機械学会論文集B編 78(791), 1327-1335 (2012)
  • 上山淳一,古川聖,亀谷知宏,松田佑,山口浩樹,新美智秀,江上泰広,陽極酸化被膜上のマイクロドット型PSP実現のためのインクジェット塗布条件,日本機械学会論文集, 80, FE0040/1-13(2014)

関連受賞

  • 日本機械学会賞(論文),2015年,日本機械学会

関連助成

  • 空力音の高空間分解能・高精度検出を実現する感圧塗料計測システムの開発,小野音響学研究助成基金,2015年4月~2016年3月

3. ヘテロダイン検出法を援用したPSP計測の提案

 PSPは、絶対圧センサーであり、大気圧近傍の微小な圧力変化の検出は不得手である。これが自動車、鉄道車両、家電製品へのPSP計測の応用の障壁となっている。
 従来のPSP計測システムは、一定強度の励起光を照射して、PSPの発光強度の変化をカメラで取得するシンプルな方法であり、工夫の余地がある。本研究室では、励起光強度を時間変調させヘテロダイン検出法をPSP計測に適用することで、計測システムのシンプルさを保ったまま、PSP計測の圧力分解能を大幅に向上させることに成功した。

 本研究は、愛知工業大学機械学科 江上泰広 教授との共同研究です。

ヘテロダイン検出法を援用したPSP計測例
気柱共鳴管内の圧力変動分布の計測結果
(上から基本振動,2倍振動,3倍振動)

発表論文

  • Y. Matsuda, D. Yorita, Y. Egami, T. Kameya, N. Kakihara, H. Yamaguchi, K. Asai, T. Niimi, Unsteady pressure-sensitive paint measurement based on the heterodyne method using low frame rate camera, Review of Scientific Instruments 84, 105110 (2013)

関連助成

  • ヘテロダイン検出法の適用による非定常PSP計測の高圧力分解能化,挑戦的萌芽研究,研究課題番号25630050,2013年4月~2015年3月
  • 感圧塗料を用いた音圧分布計測技術の開発,サウンド技術振興部門研究助成,カワイサウンド技術・音楽振興財団,2013年4月~2014年3月

4. PSP・TSPに関連するその他のテーマ

 本研究室では、上記以外にも、温度非依存型PSPを用いたHDD内部の圧力分布計測、PSP・TSPの気液二相流への応用、有機ELデバイスのPSP化などに関して研究を行っている。

発表論文

  • 亀谷知宏,松田佑,山口浩樹,江上泰広,新美智秀,感圧塗料を用いた高速回転ディスク表面の圧力分布計測,日本機械学会論文集C編, 76(771), 3002-3007 (2010)
  • Y. Matsuda, F. Nagashima, H. Yamaguchi, Y. Egami, T. Niimi, Unsteady 2D measurement of dissolved oxygen distribution using luminescent sensor film, Sensors and Actuators B: Chemical, 160(1), 1464-1467 (2011)
  • T. Kameya, Y. Matsuda, H. Yamaguchi, Y. Egami, T. Niimi, Pressure-sensitive paint measurement on co-rotating disks in a hard disk drive, Optics and Lasers in Engineering, 50, 82-86 (2012)
  • Y. Matsuda, K. Ueno, H. Yamaguchi, Y. Egami, T. Niimi, Organic Electroluminescent Sensor for Pressure Measurement, Sensors, 12(10), 13899-13906 (2012)

関連受賞

  • 日本機械学会賞(論文),2012年,日本機械学会

関連助成

  • 圧力高分解能を実現する有機EL-PSPの開発,挑戦的萌芽研究,研究課題番号21656052,2009年4月~2011年3月
  • 感圧・感温塗料によるマイクロ気液二相流の計測,若手研究(B),研究課題番号21760124,2009年4月~2011年3月
  • 有機EL技術を応用した圧力センサーの開発,村田学術振興財団,2010年8月~2011年7月
  • 蛍光・りん光分子の発光検出によるマイクロデバイス内での熱流動場計測,高橋産業経済研究財団,2012年4月~2013年3月
  • 感温塗料を用いた沸騰伝熱面での熱輸送現象の解明,カシオ科学振興財団,2013年10月~2014年9月

PSPの原理について

 PSPは、酸素消光性を有するりん光分子と、それを固体表面に保持するためのバインダー(ポリマー、金属酸化被膜など)から構成される。PSPは、一般的にりん光分子とポリマーを有機溶媒に溶かし、それを固体表面にスプレー塗布して使用される。PSPに含まれるりん光分子は、励起光の照射によって励起され発光する。この発光強度は、PSP膜内の酸素濃度、そして空気中の酸素分圧、全圧に比例する。すなわち、PSPでは、その発光強度の変化をカメラで撮影することで、模型表面の圧力を「分布」計測することができる。

 またPSP・TSPの最近の研究動向に関して,「可視化情報学会誌, vol. 34, No. 132(2014)」が詳しい。
国立情報学研究所CiNiiの当該雑誌巻号へのリンク
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jvs/34/132/_contents/-char/ja/

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