マイクロ気体流れにおける固体表面の影響の総合的解明Research

 日常生活における空気などの気体流れにおいては流体中の分子の存在を気にすることはほとんどない。しかし、宇宙などの低圧力環境や非常に小さなマイクロスケールにおける気体流れでは、分子に着目してその運動の結果として流れを捉える必要が出てくる。低圧力環境とは分子の数密度が小さいことであり、その結果として流れの中における分子同士の衝突回数が減少して非平衡な状態が維持されて観測されることが多くなる。そして、分子同士の衝突回数が減少した結果、相対的に固体壁面との衝突回数が無視できなくなる。マイクロスケールにおける流れではスケールの小ささのために、分子は他の分子とあまり衝突しないうちに流れ場の境界である固体壁面に衝突することになる。よって、どちらの流れにおいても分子と固体壁面との衝突が重要な役割を果たしていることになる。特にマイクロスケールにおいては流体の体積に対して流路壁面と接している表面積が相対的に大きくなるので、その役割は特に大切である。なお、分子同士の衝突回数と分子と境界との衝突回数を比較した無次元数としてクヌッセン数が知られているが、これらの流れはどちらもクヌッセン数が大きくなる高クヌッセン数流れに分類される。

 では、分子は固体壁面と衝突する現象について考えてみよう。固体壁面も運動する数多くの分子から構成されていることを考えると、分子は衝突位置や時刻によって様々な方向へ様々な大きさの速さをもって散乱していくことになる。この際に、分子は固体壁面とエネルギーや運動量を交換し、そのやり取りの結果として、流れ場や温度場が形成されることになる。ただ、その衝突・散乱現象は非常に複雑である上にアヴォガドロ数という膨大な数の分子の現象の合計として観察可能な流れ場や温度場となることを考えると、問題はそれほど簡単ではない。

 その詳細を明らかにするには、特定の方向から特定の速さを持った分子群を衝突させた際にどのような方向にどのような速さで散乱するかを計測する分子線散乱実験が有効である。真空中に気体を噴出させて中心軸上の部分のみを抽出することにより、分子線と呼ばれる方向と速さの揃った分子群を作り出すことができる。この分子線を固体表面に衝突させ、散乱後の分子を様々な方角で検出することにより、散乱する方向を特定することが可能となる。このような詳細な散乱での相互作用情報は、エネルギーや運動量の交換メカニズムを明らかにするものであり、非常に重要である。ただ、このような実験装置は非常に大規模で超高真空を必要とするために実験は容易ではない。また、得られる情報は特定の条件に基づくものであることから、一般的な流れ場に適用するためには様々な条件に対する計測結果を総合して判断する必要があることにも注意が必要である。現在は基本的な散乱条件における計測を実施している。

 一方、平均的な交換効率を知ることも実用性を考えれば非常に有意義である。この平均的な交換効率は適応係数と呼ばれ、研究が進められている。 適応係数は分子と固体壁面の組み合わせが異なるとその値を変えることが知られている。また、固体壁面の分子構造を忠実に再現することが困難であることから数値解析による導出も容易ではない。そこで、適応係数の実験的な計測が重要であり、現在はその計測に取り組んでいる。特に様々な組み合わせに対する適応係数を網羅的に調査することを目標とし、計測システムの開発や計測を行っている。適応係数は、エネルギーや運動量などの物理量毎に定義することが可能であり、それぞれの計測が必要である。物理量毎に交換されるメカニズムが異なるので、計測システム・原理も異なったものとなる。流れ方向の運動量に関しては流動抵抗と関連付けることで可能となるため、マイクロチューブ内の微小流量を計測するに装置を構築し、理論解析を用いて適応係数の導出を行っている。エネルギーに対する抵抗係数に関しては温度の異なる表面間の熱輸送と関連付けられるため、球形容器を用いた新規手法に基づく熱輸送の計測装置を開発し、計測を行っている。

気体分子と固体壁面との相互作用の実験的計測装置

関連論文

  • H. Yamaguchi, T. Hanawa, O. Yamamoto, Y. Matsuda, Y. Egami, T. Niimi , Experimental measurement on tangential momentum accommodation coefficient in a single microtube ,
    Microfluidics and Nanofluidics , 11, 57-64 (2011)
  • H. Yamaguchi, K. Kanazawa, Y. Matsuda, T. Niimi, A. Polikarpov, I. Graur , Investigation on heat transfer between two coaxial cylinders for measurement of thermal accommodation coefficient ,
    Physics of Fluids , 24, 062002 (2012)
  • H. Yamaguchi, T. Imai, T. Iwai, A. Kondo, Y. Matsuda, T. Niimi , Measurement of thermal accommodation coefficients using a simplified system in a concentric sphere shells configuration ,
    Journal of Vacuum Science and Technology A , 32, 061602, (2014)

関連助成

  • 高クヌッセン数流れにおける気体分子・固体表面間相互作用の解析 , 特別研究促進費 , 2006年04月 ~ 2008年03月
  • 分子線実験と数値実験の融合による気体‐表面相互作用の詳細解明 , 萌芽研究 , 2007年04月 ~ 2009年03月
  • 高クヌッセン数流れ境界条件の解析 , 若手研究(B) , 2008年04月 ~ 2010年03月
  • 分子スケールからの流体‐壁面間相互作用の相補的な解明 , 若手研究(B) , 2011年04月 ~ 2014年03月
  • マイクロスケールにおける水分子の流動特性の解明 , 萌芽研究 , 2014年04月 ~ 2016年03月
  • 分子線によるグラファイト表面における散乱機構の解明 , 豊田理研スカラー , 財団法人 豊田理化学研究所 , 2011年04月 ~ 2012年03月

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