高クヌッセン数
マイクロ熱流動

宇宙・真空とマイクロ・ナノスケールの熱流動現象は全く関係なさそうに見えて共通点があります.それは分子の運動として考えなければならず,流体力学や伝熱工学などで学ぶ通常の環境の熱流動と異なるという点です.そして,特異な興味深い現象も数多く見られます.ただ,分子を捉えるのは簡単ではなく,その計測は困難を極めます.

本研究グループでは,想像力を駆使しながら,マイクロ熱流動の特性解明とそのデバイス応用を目指して研究しています.得られた知識は宇宙や半導体製造でみられる真空環境でも利用することができます.

研究内容

Research Topics

高クヌッセン数流れにおいては,流体中の分子は他の分子と衝突するだけでなく壁面境界とも無視できない数の衝突をします.さらに,マイクロスケールの気体流れにおいては体積に対して表面積の割合も大きくなります.そのため,どのような熱流動場となるかには境界における気体分子と固体表面との相互作用が大きく影響します.相互作用を詳しく解析することにって,熱流動場の理解を深め,応用へとつなげていきます.

マイクロ気体流れの流量計測

Flow Rate Measurement of Micro Gaseous Flow

非常に細く1/100mm程度の幅しかない流路を流れる気体流れは,流路壁面の影響を強く受けます.そのため,壁面の素材や表面状態,流れている流体の分子種によってその流れやすさは大きく変化します.
本研究グループでは,流路を通過する微少流量を,下流に設置したタンクの圧力変化から計測する定体積法と呼ばれる手法を用いて計測しています.1012 kg/s程度の微小流量の計測を行っています.

微少流量計測装置
微少流量計測装置
  • 2021年度修士論文 金属細線における接線方向運動量適応係数の計測手法の確立

高クヌッセン数流れに対する壁面の影響

Effect of Surface on High Knudsen Number Flow

真空中に2枚の円板を平行に配置します.片側を回転させるともう片方も回転するようになります.これは円板間の分子が運動量を輸送するからです.
本研究グループでは,この計測から流動抵抗の大きさを求めています.

平行円板流動抵抗計測装置
平行円板流動抵抗計測装置
  • 2021年度修士論文 粘性真空計の原理を用いた接線方向運動量適応係数の計測
  • 2021年度卒業論文 回転円板を用いた金属表面における接線方向運動量適応係数の計測

真空やマイクロスケールでの熱輸送

Flow Rate Measurement of Micro Gaseous Flow

高クヌッセン数となる真空やマイクロスケールにおいては,熱の輸送も分子の運動によって行われます. そのため,壁面の素材や表面状態,流体の分子種によってその輸送量は大きく変化します.
本研究グループでは,真空環境を利用し固体表面試料からの放熱量を計測することにより,固体表面と気体分子の間における熱輸送効率を明らかにする計測を行っています.

熱輸送計測装置
熱輸送計測装置
  • 2021年度修士論文 気体分子散乱モデルパラメータ決定のためのエネルギー適応係数の計測

熱流動と固体表面との相互作用: 高クヌッセン数流れの境界条件

Interaction between Thermal Fluids and Surfaces: Boundary Condition for High Knudsen Number Flows

気体分子と固体表面の相互作用を個々の気体分子の観点から見直してみると,固体表面に衝突して散乱する過程として考えることができます. 流動抵抗は運動量の輸送,熱はエネルギーの輸送に関係するため,上の研究で求めてきた値を用いることで,固体における境界条件を明らかにすることができます.
本研究グループは流れと熱に関する実験を両方行うことができる希少な研究グループであり,これらの実験から境界条件のパラメータを明らかにすることを試みています.

気体分子と固体表面の相互作用
気体分子と固体表面の相互作用

熱で駆動するマイクロ気体流れ

Thermal Transpiration Micro Gaseous Flow

高クヌッセン数流れにおいては,流れ方向に温度勾配があると,冷たいほうから暖かいほうへ向かって流れが駆動されます.これを熱遷移流と呼びます. 温度分布を与えるだけで流れを生み出すことができることから,工業的な応用も試みられています.
本研究グループでは,どのようにしてこの流れが引き起こされるのかを調べるとともに,応用を見据えてこの流れが持つ特性を調べています.

熱遷移流
熱遷移流

高クヌッセン数気体流れの可視化流動計測

Visualization of High Knudsen Number Gaseous Flow

高クヌッセン数流れは原子・分子の運動として捉えなければならないため,普通の熱流動場に対する計測手法を使うことが難しいです.
そこで,レーザー光により分子にエネルギーを与えることで分子を発光させるレーザー誘起蛍光法(LIF)を利用することで,見えない原子・分子の流れ場の様子をカメラで撮影できるようにします. 本研究グループでは,この分子からの発光を利用した流速計測手法である分子タギング速度計測法(MTV)による計測を行っています.

MTV
MTV